ようこそパラノイアへ


パラノイアを開始…
セキュリティクリアランス「赤外(インフラレッド)」。全市民に許可。



何か御用でしょうか?

ええ。このRPGの仕組を教えて頂けませんか?


市民、申し訳ありません。その情報は現時点ではご利用になれません。

え? 大概のゲームでは熱心にルールを教えようとしてきますよ。

パラノイアでは違います。パラノイアでは、ルールは知らされないのです。誰が自分の敵かもわかりません。自身の装備がどう動作するのかもわかりません。自分が何かをしている時も、なぜそれをしなければならないのか知らされることはありません。ただ、ひとつ確かなこともあります。誰もがあなたを仕留めようと躍起になっている、ということです。

無知と恐怖。恐怖と無知。疑心暗鬼。これが合言葉です。

あー…。このページの下の方に、コンピューターについて何か書いてあるようですけど。

パラノイアでは、貴方はトラブルシューターに扮し、コンピューターに奉仕します。コンピューターを信じなさい。コンピューターは貴方の友人です。貴方はコンピューターの信を背負ったエージェントであり、コンピューターが治める遠い未来の地下都市アルファコンプレックスの守護者なのです。

なぜ私がトラブルシューターなんですか?

貴方の友人を反逆罪で売り渡したからです。アルファコンプレックスを裏切ったかどで、コンピューターは彼を処刑しました。コンピューターは貴方の忠誠に報いたのです。

反逆者を捕え、処刑し、根絶やしにするのです。コンピューターの奉仕者の中に蔓延る腐敗を暴露し、内務公安局(Internal Security。通称IntSec)に引き渡すのです。つまり貴方の役目は、トラブルを見つけ出し、これをシュートする、つまり文字通り「撃つ」ことです。

「反逆者」とは?

反逆者とは悪意の市民であり、友たるコンピューターを裏切って、コンピューター、アルファコンプレックス、人類、さらには我々が知るようなあらゆる生命を破壊しようとする者どものことです。奴ら全員の本性を暴き、滅ぼしなさい。気をつけなさい、反逆者はどこにでもいます! 

突然変異種(ミュータント)は反逆者です。この遺伝的異常者は制御の効かない能力を持っているのですが、これをアルファコンプレックスに奉仕するために供するのではなく、身勝手にも自らの出世のために用いているのです。連中を制圧し、排除しなければいけません。

秘密結社の構成員も反逆者です。コンピューターの認可を受けていないこれらの組織においては、無責任にもアルファコンプレックスの秩序を傷つけるような陰謀が企てられているのです。秘密結社は滅ぼさねばなりません。

ところで。貴方はミュータントであり、かつ秘密結社の構成員です。つまり、貴方は反逆者です。

ちょっと待ってください。私が反逆者?

その通り。貴方の仲間のトラブルシューターは貴方の正体を暴き、反逆者として処刑したくてたまりません。貴方は多くのトラブルシューターと一緒に働いています。彼らは皆、強力な武器を携帯しています。

整理させてください。私の仕事は反逆者を狩り、殺すことです。私は同じ命を受けた他の人々と一緒に働いています。彼らはみな私を殺したいと?


その解釈は不正確です。彼らはみな反逆者を殺したいのです。彼らは貴方が共産主義者(コミー Commie)でミュータントな反逆者だとは知りません。今のところは。

ばれたら?

正しい市民がそうするように、貴方を捕縛するなり殺すなりするでしょう。もちろん、貴方が先に向こうを反逆者として告発すれば、コンピューターが彼らを処刑し、貴方は生き残るでしょう。とはいえ注意すべき点は、誤った告発はそれ自体が反逆だということです。

ということは、私が反逆者だと彼らに証明されるより前に、向こうが反逆者だと証明しなければならないと。それができなければ、死ぬ?


まさしく。死んだ反逆者は自らの無実も貴方の罪も証明できません。貴方がチームでただ一人生き残ったトラブルシューターだとなれば、事は都合よく進むでしょう。

良いニュースがあります。トラブルシューターというのは、撃たれ、刺され、焼かれ、潰され、毒され、粉微塵になり、時にホチキス止めにされるのが日常なので、チームメイトにとどめを刺す機会はいくらでもあるのです。

気を抜くな! 誰も信じるな! レーザーガンを手放すな!

…本当にこれが楽しいと思ってますか?

無論ですとも、市民! 楽しいことは義務なのです。コンピューターがそう言うのです。コンピューターは貴方の友人です。コンピューターを疑いますか? コンピューターを疑うのは反逆です。

いえ! 滅相もありません! 楽しいのが義務だとコンピューターが仰るのなら、これは間違いなく楽しいことなのです。そうでないと考えるのはコミーでミュータントな反逆者だけですとも。


素晴らしい! 解ってきたようですね。それでは信頼の証として、コンピューターは貴方をセキュリティクリアランス「赤(レッド)」に昇格させましょう。パラノイアへようこそ。



カフカとオーウェルとマルクス兄弟の世界へようこそ。パラノイアは険悪で滑稽な未来を舞台にした風刺RPGです。善意の、しかし錯乱したコンピューターが、秘密結社やミュータントその他様々な実在ないし非実 在の敵から市民を守ろうと必死になっています。貴方が扮するのはコンピューターに選ばれた者であるトラブルシューター。コンピュータの敵を探し出し、粉砕す るのです。コンピューターや仲間のトラブルシューターが、ある事実を暴き出さないことを祈りつつ。そう、貴方もコンピューターの敵のひとりなのです。

恐怖と死と官僚主義とマッドサイエンティストとミュータントと危険な武器と狂ったロボットが織りなす、愉快なRPG。いつでも嘘と詐欺と策謀を。


もしもあの人気ファンタジーRPG[TM]がパラノイアだったら


多くのRPGはロールプレイングのことを「ルールのあるごっこ遊び」と表現しています。また別のRPGでは、ストーリーテリングにおいて起こる深い感情的コラボレーションだとしています。一部では、ゲーム論者的物語論者的シミュレーション論者的RPG哲学に関する学術的神秘的議論も繰り広げられています。インディー系のゲームの中には、ロールプレイングをジャズバンドの即興セッションに例えるものすらあります。

こういう説明は嫌いじゃありません。パラノイアはこれらの全てに、幾分非ジャズバンド的ではありますけれども、少しずつ似ています。ですが、違っているとも言えます。つまりパラノイアはまた、一種の心理学実験でもあるのです。

ですので、貴方に遊び方の説明はしません。ゲームの遊び方の例すら、示すつもりはありません。

代わりにここで、他のゲームから例を取ってきましょう。パラノイアのユニークな特徴を劇的に表現するには、他のよくあるファンタジー迷宮探検物RPGの例にパラノイア的フィルターをかけてみるのが解りやすいと思います。ということで、ちょっとやってみましょう。

(※パラノイアはハイテク地下都市を舞台にしたゲームで、そこに登場するのはレーザーやロボット、クローン市民、狂気のコンピューターです。このゲームのキャラクターには「クラス」、つまり戦士や魔術師、僧侶に盗賊といったものですが、そういうものはありません。魔法もありませんし、放射能の影響で巨大化したミュータントゴキブリが時折現れることを除けば、モンスターもいません。以下を読む際は、この点に注意してください。




ゲームマスター(GM):君達がいるのはダンジョンの長い廊下で、床は砂地で壁は石、天井は石がアーチ型に組まれている。壁には10フィートごとに燭台が据え付けられ、それぞれに火が灯されている。扉がひとつある。
戦士プレイヤー:石の色は?
GM:橙かな。
盗賊プレイヤー:あー! 俺はクリアランス赤なの! ここから出させて!
僧侶プレイヤー:機密情報取扱許可全体上昇の魔法をかけて、我々みんなを橙にします。(GMにメモを渡す「加えて、戦士を対象に、共産主義へオルグする魔法をかけます」)
魔術師プレイヤー:記憶の宝玉を使って、僧侶の呪文を記録します。というのは、つまり、あー、彼の技術を後で学びたいかもしれないので。
僧侶:もちろん勿論。(予めオルグしておいた盗賊に目配せ。盗賊は頷き、GMにメモを渡す。GMは20面体ダイス1個[1d20]を振る)
GM: OK。これで今はみんなオレンジ、従って安全に廊下を渡れる。君達の指示は、思い出してね、扉を調べることだった。(戦士にメモを渡す「君は、既存の社会的階級を打破し人民に力を取り戻させたいという、奇妙で反逆的な衝動に突き動かされた」)
戦士:(息を飲んだ後に)来たれ、同、もとい親愛なる英雄諸君、共に扉を打ち破るのだ!
魔術師:おい待て! お前いま「同志」とか言いかけたろ? コミーの言葉じゃねえか!
僧侶:そんなこと言うわけがないでしょう。私には何も聞こえなかったよ。
盗賊:俺も何も。なになに、リーダー様を間違い告発っすか? それ反逆よ?
魔術師:お前ら動くな! 告発だけじゃ済まさん、このファイアボールの杖を反逆者三人に向ける! ここまでの全部、記憶の宝玉に記録してるからな!
GM: 宝玉を手に取ろうとすると、宝玉が無くなっていることに気づく。
盗賊:おーおー、とーっても貴重なマジックアイテム無くしちゃったのかなー? ギルドホール戻ったらえらい罰金が待ってるねー。
魔術師:ファイアボールをこいつら全員に撃つ!
GM:(20面体ダイスを1個振って)ごめんね、この実験段階のファイアボール杖なんだけど、暴発した。瞬間、君は炎球に包まれて焼け死んだ。君の真っ黒焦げになった体については、幸いにもオレンジ色の炎が包んでいるから、セキュリティクリアランス違反にはならなくて済むわけだ。魔術師を1人消してね。次の分身はギルドホールから派遣されてるから、たぶんすぐ来るよ。
魔術師:糞が、ツケは払わせてやる…
GM:はーい、死んでる人は喋らないでくださーい。突然、扉が開く。皮鎧を着た巨大なホブゴブリンがブロードソードを構えて立っている。胸には銀の手の印が打ってある。
盗賊:攻撃を…
戦士:待て! 顎の下から指を振って、そのホブゴブリンに見せる。
僧侶と盗賊:何を?
GM:ホブゴブリンは君のサインに気づいて頷き、剣を下げる。ホブゴブリンは君達全員を中に手招きする。誰が最初に入る?
戦士、盗賊、僧侶:(互いを指さして)こいつ!



と、こんな調子です。くり返しますが、パラノイアの舞台である地下都市アルファコンプレックスは、この例に出てくるような伝統的ファンタジーの構成要素とは似ても似つかないものです。従って、アルファコンプレックスについては、貴方はまだ大した知識を持っていないことになります。

持たないままで行きましょう。そのほうが長生きできますから。